藤沢周平 「又蔵の火」

見たり、読んだり、思ったり。

藤沢周平 「又蔵の火」

「又蔵の火」
著 者 藤沢周平 (ふじさわ しゅうへい)
発行所 文春文庫


 藤沢周平にとって二冊目の作品集。
 直木賞受賞後の作品2篇と受賞前の作品3篇を収める。

 目 次
又蔵の火
帰郷
賽子無宿
割れた月
恐喝

あとがき
 解説 常盤新平

 著者があとがきで書いているとおり、どの作品の主人公も、暗い宿命のようなものによって背中を押されて生き、あるいは死ぬ。当時の作者の中に、書くことでしか表現できない暗い情念があって、いずれの作品もその暗い情念が産み落としたものだからだろうという。

「又蔵の火」
 家の面汚しとして死んだ兄万次郎の仇を打つために、又蔵は鶴ヶ岡の町へ帰って来た。

「帰郷」
 無職渡世、もと木曾福島宿の漆塗り職人宇之吉が故郷を出たのは二十六の時だった。

「賽子無宿」
 壺振りをしていた喜之助にとって二年ぶりの江戸の町だった。

「割れた月」
 島で赦免を言い渡された鶴吉は五年ぶりで六間堀町の長屋に帰ってきた。

「恐喝」
 賭場で毟りとられて一文なしの竹二郎の向う脛に一枚の端切れ板が突き当たった。

 どの作品も絶望的な結末。

 そのなかで唯一、主人公の幸福感を感じさせる作品が「帰郷」。

 「仮に父親だとしても、いまごろひょっこり帰って来て親父面をしようというのは、虫がよすぎやしないかね」と言っていたおくみだが、

「行っちまえ、行ってどっかで死んじまえ」
 宇之吉は振り向いて微笑した。いまほど、おくみがぴったり寄りそってきていることを感じたことはなかった。途方に暮れたように、おくみを抱きとめている源太にうなずくと、宇之吉はまた背を向けた。(165ページ)

 どの作品の主人公も極道に身を窶すのだが、極道の極みが賭博。賽子賭博のなれの果てを、あたかも作者が現場で賽子を振っているかのような克明な筆致で書き記す。結局、賭博で稼げるのは胴元だけ。

 賭博の胴元といえば、カジノ法案。

 政府が、カジノ法案を閣議決定し、国会に提出したとか。全国3カ所を上限にIRを整備し、日本人と国内居住の外国人が入場する際に6,000円を徴収することなどが柱という。

 所詮潤うのは、カジノ法によって政府のお墨付きを得る業者と業者からの上納金を得ることができる為政者。「カジノ」とカタカナ書きにすれば、その罪悪性が薄れるとでも思っているのかもしれないが、所詮賭博。政府が賭博業者にお墨付きを与えれば、国民の賭博熱を煽り立てることになろう。

 例えば、宝くじ。貧乏人にとって一攫千金できるかもしれないまたとないチャンス、それが宝くじ。しょせん賭博に入れ込むのは貧乏人。金持ちはカジノなんて見向きもしないだろう。

 入場料に6,000円かかろうが、週の入場回数に制限があろうが、一攫千金をねらう貧乏人は借金をしてでもカジノという洗練された名称の賭博場へ通うだろう。そして賭博場周辺にはサラ金業者が軒を連ねてひしめき合う。

 金融機関にとっても起死回生のチャンス。
 自業自得とはいえ泣きを見るのは貧乏人。
 民(たみ)の生き血の上に成り立つ国起し。

刑法 第186条
1.常習として賭博をした者は、3年以下の懲役に処する。
2.賭博場を開張し、又は博徒を結合して利益を図った者は、3月以上5年以下の懲役に処する。

 刑法もまた政府と賭博業者にとって都合のよいように改悪されるに違いない。

 本書を読んで初めて知った言葉が手目。
 「てめし」とルビ打ちされているが、

【手目】てめ
①博打で、いかさまをすること。
②ごまかし。いんちき。(スーパー大辞林3.0)

 今どきのカジノ、壺振りによる賽子賭博などないだろうが、コンピュータ制御となれば、いかさまなどお手のものといえるだろう。

2006年4月10日 新装版第1刷

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[ 2018/05/10 20:00 ] 国内の作家の本 藤沢周平 | TB(-) | CM(0)
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散歩すると猫に会う。
いつもの場所にいつもの猫がいるのだが、人間とは付かず離れずの関係を保ちつつ生きているように思われる。

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