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宮城谷昌光 「晏子」 (1) (2) (3) (4)

「晏子」 (1) (2) (3) (4)
著 者 宮城谷昌光 (みやぎたに まさみつ)
発行所 新潮文庫


 中国・春秋時代の斉の政治家、晏弱(あんじゃく)・晏嬰(あんえい)父子を題材とした小説。

 春秋時代(紀元前770年~紀元前403年)
 晏弱( ? ~紀元前556年)
 晏嬰( ? ~紀元前500年)

 「単行本あとがき」によると、

 歴史小説は感動を書くものだといわれる。
 そうだとすれば、自分の魂をゆさぶった人物を書くべきであろう。
 わたしにとって晏嬰はまさにそのひとりであった。
 ――晏嬰を書きたい。

 そんな作者の感動が読者に伝わり、図らずも読者が心の襞を震わせ、小説の登場人物に作者の主観が込められていたとしても、小説とは作者の主観そのものなのだが、読者が登場人物の事績をほんとうにそうであったかもしれないと思いながら、物語に耽溺する時間を得ることができたとき、読者は歴史小説を読む醍醐味を得たことになる。

 晏嬰の身長は、六尺(1m35㎝)に満たなかったと、いわれる。晏嬰が斉の宰相になったころ、魯の出身である孔子は二十代、かれの身長は九尺六寸(2m16㎝)だった。晏嬰が生まれたとき、その大きさは晏弱の大きな掌にすっぽりおさまりそうな小ささだったという。

 春秋時代という中国の乱世の時代、身長で人から侮られることの多かった晏嬰が、国家の危局では言葉の武勇、言葉のドラマを演じる。主君を諫めるときは、その顔色をも顧みず、仕えた三代の君主、霊公に、荘公に、景公に歯に衣を着せずNOを言い続けた。

 晏嬰の同時代人として鄭の子産がいる。そしてまた作者自身が『子産』を書いているのだが、その子産以上に作者のリスペクトしている人物が本書で主役を演じる晏嬰なのだ。

 本書を通読して脳裏に残った単語のひとつが【社稷】。
 【社稷】の意味を電子辞書「スーパー大辞林3.0」で調べてみると、

【社稷】
①土地の神(社)五穀の神(稷)。昔、中国で建国のとき、天子・諸侯は国家の守り神としてこの神々を祀った。
②国家。朝廷。
③朝廷または国家の尊崇する神霊。

 現在ではもっぱら②で用いられているようだが、第四巻の池田雅延の解説がよく分かる。

 もしも国家がついえれば、国民は亡国の民となって困窮におちいる。国家が達者でありさえすれば、少なくとも民はその困窮を免れる。民が困窮を免れるかぎりは、かつがつとはいえ天意にかなう。君主は、民の上に立ってはいるが、国家に仕える者である。臣下は君主に仕えているが、それは国家を養うためにである。ゆえに、君主への叛逆は、いかなる事由があろうと叛逆である。無辜の民を、困窮に追いやる暴挙だからである。(第四巻393ページ)

 現代の日本という国家、主権がほんとうに国民にあるのであれば、為政者が私利私欲を持つなどあり得るはずがなく、国会で虚言を弄することもまたないはずである。ところが一国の首相、「税収というのは国民から吸い上げたものであります」などという言葉を吐き、己にとって都合の悪いことに対しては、知らぬ存ぜぬを連発する。無辜の民が大半を占める私たち国民に待ち受けている未来は。

 本日(2018年3月31日)の毎日新聞の記事によると、麻生太郎副総理兼財務相が29日の参院財政金融委員会で「TPP11」の署名式を巡る報道について、「日本の新聞には一行も載っていなかった」と述べたという。

 以下の報道を毎日新聞から引用すると、

 しかし、8日(日本時間9日)にチリで行われた署名式について毎日新聞、朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞などは9日付夕刊や10日付朝刊で報じている。
 30日の参院財政金融委員会で「(署名式は)1面トップを飾ってもおかしくない記事。日経新聞でも3面でしたかね。1面に載っていなかったので一行も載っていなかったと申し上げた」と弁明したが、日経は朝刊1面に掲載した。
 毎日などの10日付朝刊1面トップは佐川宣寿前国税庁長官の辞任だった。

 同じ紙面に、「麻生氏の発言内容」が「麻生太郎副総理兼財務相の29日の参院財務金融委員会での答弁は次の通り」として載っている。

 今、「TPP11」というのが日本の指導力で間違いなく締結された。こないだ茂木大臣(経済再生担当相)、0泊4日でペルー(正しくはチリ)往復しておりましたけど、日本の新聞には一行も載っていなかったですもんね。本人としては、甚だ憤まんやるかたなかったんだと思いますけど。
 まあ、日本の新聞のレベルってのはこんなもんなんだなと思って、経済部のやつにぼろかすに言った記憶ありますけど。みんな、森友(学園)の方がTPP11より重大だと考えているのが日本の新聞のレベル。政治部ならともかく経済部までこれかと、おちょくりにおちょくり倒した記憶がありますけど。これはものすごく私は大きかった条約締結の一つだったと思う。(毎日新聞13版第5面)

 同じ内閣の閣員でありながら、条約の締結された国がチリかペルーかも分からず、日本の大臣のレベルってのはこんなもんなんだなと思っているのは、私だけではあるまい。日本は言霊の幸ふ国(ことだまのさきはふくに)のはずなのに、これでは言葉に呪力の帯びようがなく、幸福は逃げ去るばかり、国民に待ち受けているのは暗澹たる世の中だけなのかもしれない。

 本書は混迷の時代を生きぬくに際して、座右の銘となり得る晏弱・晏嬰そして著者の名句名言に満ち満ちている。

「晏子」 (1)・(2) 1997年9月1日 発行
「晏子」 (3)・(4) 1997年10月1日 発行







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[ 2018/03/31 14:00 ] 国内の作家の本 宮城谷昌光 | TB(-) | CM(-)
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Author:きどのひつじ
散歩すると猫に会う。
いつもの場所にいつもの猫がいるのだが、人間とは付かず離れずの関係を保ちつつ生きているように思われる。

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