宮城谷昌光 「草原の風」 上・中・下

見たり、読んだり、思ったり。

宮城谷昌光 「草原の風」 上・中・下

「草原の風」 上・中・下
著 者 宮城谷昌光(みやぎたに まさみつ)
発行所 中公文庫


 中高で学ぶ歴史の教科書に記載されている漢を再興した光武帝劉秀についての事績といえば、「新にかわって統一を実現したのは、後漢(25~220年)の建国者光武帝劉秀〈位25~57〉である。漢の一族であった彼は、豪族たちの支持をえて帝位につき、洛陽に都を定めた。」(もういちど読む山川世界史)ということだけ。

 あるいは日本との関わりでみると、「倭の奴の国王が紀元57年に後漢の光武帝のもとに使いをおくって印綬をあたえられ」た(もういちど読む山川日本史)ことしか記載されていない。

 授業展開もまた教科書程度の内容ですまされてしまうのが現状ではないだろうか。

 教科書の記述からうかがうことのできる劉秀をめぐる状況だと、あたかも草木がなびくように新の滅亡に際してすべての豪族が劉秀を支持していったように思いこんでしまいがちだが、彼の歩んだ道程は並大抵のものではなかった。

 本書は小説であるからには、著者による脚色など読み物として十分に楽しむことができるようにストーリーが展開されているとはいうものの(その内容は抜群の面白さ)、歴史的存在としての劉秀にも十分に迫ることができる。市井の男性にも女性にも慕われた劉秀の人となりが魅力的に描かれる。

 かつて毎日新聞朝刊に連載されていた著者の『劉邦』を読んでいたときにも思ったのだが、過去の中国を題材とした小説を読むとき、陰陽五行についての知識は不可欠。そしてまた筆者が当時の世相のありようを描くに際しても陰陽五行についての記述は不可欠。本書でも著者は陰陽五行を程よく取り入れながら物語を展開、分かりやすく程よい解説を加えながら展開している。

 陰陽五行について最初に記述されている箇所は上巻68ページから70ページ。木、火、土、金、水という宇宙の五元素、相生、相剋について最小限ながら程よく記述されている。

 しかし、この箇所について私見を述べさせてもらうなら、西の方位が意味する内容について日本人的な解釈をしてしまい、西を解釈するに際して五行の意図を逸脱してしまったようだ。その結果、本来ならば五行を知悉しているはずの劉秀に日本人的な独白をさせてしまった。


 常安へゆくことが人生の旅立ちであるとすれば、不安あるいは懸念がひとつあった。蔡陽からみた常安の位置、方向がそれである。常安、
「西北」
 にある。劉秀は人生の第一歩を西北にむかって踏みだすのである。そこがすっきりとしない。人生の始動とは、
 ――東へむかってゆく。
 というのが成功への常道である。
・・・・・
・・・・・
 ――東へゆくべきなのに、西北とは。


 季節のめぐりとしては春夏秋冬なのだが、東へむかってゆくことが成功への常道なのではなく、西へ向かうことこそが成功の常道なのである。五行で西の方向、すなわち「金」の意味することを上住節子著『算命占法 (下)』を拠りどころとしてまとめてみると、

 金は規範にしたがって新しい形に変革する働きを示す。金の方位は西方、物を成就し作りあげるところ。金は義徳を象徴し、攻撃本能をあらわす。自らの信じる道を断行し自尊心の強い攻撃的な活動形態をとる。土との関係から金をみると、人から見て魅力があり、人には信用されて(信=土)はじめて正義を断行して悪を攻める(義=攻撃本能)ことができる。

 劉秀にとって、西にある「常安へゆくことが人生の旅立ち」。それまでの劉秀は自ら農耕に従事して人生の基礎を培った土の人、土の時代。土は金を生む。西というのは、「さあ、やるぞ」という強い意志、攻撃本能をあらわす金によって位置付けられる方位なのである。土生金。事業を起こすなど、ものごとを始めるのは西の方からというのは五行の基本。ということは、「西北に向かって踏みだす」ことによって劉秀の成功への決意が示され、彼が光武帝となる未来が暗示されてくる。

草原の風(上)2013年9月25日 初版発行
草原の風(中)2013年10月25日 初版発行
草原の風(下)2013年11月25日 初版発行





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[ 2018/01/23 01:00 ] 国内の作家の本 宮城谷昌光 | TB(-) | CM(-)
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Author:きどのひつじ
散歩すると猫に会う。
いつもの場所にいつもの猫がいるのだが、人間とは付かず離れずの関係を保ちつつ生きているように思われる。

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