たとふれば猫かもしれず

見たり、読んだり、思ったり。

「ボックス21」 アンデシュ・ルースルンド&ベリエ・ヘルストレム

「ボックス21」
著 者 アンデシュ・ルースルンド
    ベリエ・ヘルストレム
訳 者 ヘレンハルメ美穂
発行所 早川書房 (ハヤカワ・ミステリ文庫)


 『制裁』の続編。
 『制裁』の一年後。

 ストックホルム市警エーヴェルト・グレーンス警部とスヴェン・スンドクヴィスト警部補が主人公として活躍するシリーズ第二作。

 テーマは旧ソ連や東欧からの女性の人身売買と強制売春。
 訳者あとがきによると、スウェーデンはじめ北欧諸国で深刻な問題となっているという。

 国際労働機関(ILO)の推算によっれば、人身売買の犠牲者(性的搾取だけでなく、強制労働なども含む)は、世界で1230万人にのぼるという。

 リトアニア人売春婦のリディアが鞭で打たれ意識を失った状態で発見されたのは冷夏のストックホルム。アパートの一室。搬送された病院で意識を取り戻した彼女は医師を人質に取り、地階の遺体安置所に立てこもった。

 同じころ、同病院内で覚醒剤に洗剤を混ぜて売りマフィアの怒りを買ったヘロイン依存者の殺人事件が発生し、その捜査を担当していたグレーンス警部が立てこもり事件の指揮をすることになった。

 リディアが人質と引き換えに要求したのはグレーンス警部の元同僚で友人のベングト・ノルドヴァル。

 リディアの目的は?

 最終ページ576ページの三行で明らかにされる真実。

 エーヴェルト・グレーンスといい、スヴェン・スンドクヴィストといい、何とも馬鹿な警察官。この二人の警察官に、人身売買の現場にいたジャージの上下に身を包み頭にフードをかぶったリトアニア人の女が誰であるか、真実を知る日は訪れるのだろうか。

 次の第三作目は『死刑囚』。

 訳者あとがき。

2017年11月25日 発行

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「制裁」 アンデシュ・ルースルンド&ベリエ・ヘルストレム

「制裁」
著 者 アンデシュ・ルースルンド
    ベリエ・ヘルストレム
訳 者 ヘレンハルメ美穂
発行所 早川書房 (ハヤカワ・ミステリ文庫)


 「ガラスの鍵」賞(最優秀北欧犯罪小説賞)受賞のノンストップ・ノベル。
 原文がどうなのか分からないけれども、過剰な修飾語を省いた小気味よい展開のハードボイルド。物語を楽しむと同時に、死刑制度の存在しない国のジレンマをも知ることができる。

 女児暴行・殺害の罪で服役中の囚人が、護送中に逃亡。

 ふたたび幼い少女が犠牲となる可能性が発生。

 警察が総力を挙げて逃亡した囚人の行方を追うなか、五歳の娘を保育園に送り届けた作家のフレドリックは、閉まった門のすぐ外にあるベンチに座っている男を目撃。

 子どもたちの誰かの父親にちがいない。

 離婚した元妻からの電話を受けながら見たテレビの画面に、先ほど見たベンチに座っている男が映っている。

 逃亡した女児暴行・殺害の罪で服役中の囚人。

 再び悲劇が繰り返され、女児の父親フレドリックは犯人を射殺した。

 フレドリックに下された判決と、その判決が投げかけた波紋。

 異常な暑さに見舞われた夏のスウェーデンで憎しみの連鎖が展開される物語。

訳者あとがき。

2017年2月25日 発行

「三秒間の死角 上・下」 アンデシュ・ルースルンド&ベリエ・ヘルストレム

「三秒間の死角」 上・下
著 者 アンデシュ・ルースルンド
    ベリエ・ヘルストレム
訳 者 ヘレンハルメ美穂
発行所 角川文庫


 英国推理作家協会(CWA)が優れた非英語圏の作品に贈るインターナショナル・ダガー賞を受賞。

 スピード感あふれるスリリングな展開。
 北欧ミステリーの魅力満載。
 絶妙な面白さこのうえなし。

 初めて読んだアンデシュ・ルースルンド&ベリエ・ヘルストレムの作品だったが、本作品はストックホルム市警のエーヴェルト・グレーンス警部とスヴェン・スンドクヴィスト警部補が活躍するシリーズのうちの一作だった。

 日本で刊行された本シリーズの邦題、未刊行の原題をあげておくと、
「制裁」
「ボックス21」
「死刑囚」
「Flickan under gatan」
「三秒間の死角」
「Tre minuter」

 ストックホルム市警によって麻薬密売組織ポーランド系マフィアに送り込まれた警察の情報提供者ピート・ホフマンが居合わせた麻薬取引の現場。麻薬の買い手としてやって来た男が、過去を偽装した警察の手先であることが露見し、ホフマンの制止にもかかわらずポーランド人によって射殺されてしまった。

 人が殺される現場に居合わせたことによって、ホフマン自身が殺人に関わる罪に問われる可能性が出てきてしまった。ホフマンが巻き込まれた殺人事件の担当者はエーヴェルト・グレーンス警部。

 麻薬密売組織の中枢にまで潜り込んだピート・ホフマンが組織から与えられた任務は、刑務所内に麻薬密売の拠点を作ることだった。

 秘密裏に政府上層部のお墨付きを得たホフマンは、巧妙な手段で麻薬を刑務所内に持ち込み、ライバル業者を蹴落として商売を始めたが、ホフマンの正体を知らないまま、入所前に彼が関わった殺人事件を捜査するグレーンス警部の追求の手が迫るのを知った政府上層部は、ホフマンを切り捨てる決断を下した。

 上層部の切り捨て策とは、ホフマンが警察の情報提供者であることを刑務所内に暴露することだった。たちまち裏切り者に対する容赦ない攻撃が始まる。裏切り者に対する制裁は死あるのみ。

 〝俺は、つねにひとりきりだ〟
 〝自分だけを信じろ〟
 〝もし、正体がばれたら。切り捨てられたら。ひとりきにになったら〟

 絶体絶命の窮地に追い込まれたホフマンは生き延びるため、入所前に準備した計画を実行する。

 解説は、杉江松恋。

2013年10月25日 初版発行



髙樹のぶ子 「白磁海岸」

「白磁海岸」
著 者 髙樹のぶ子 (たかぎ のぶこ)
発行所 小学館


 初出は「北國文華」(北國新聞社刊)55号(2013年春号)~71号(2017年春号)に『波涛』と題して17回連載。

 作品の舞台は石川県。

 堀雅代は自殺と断定された息子の死因に疑問を持ち続けていた。当時息子の圭介は22歳。大波が当たる堤防から身を投げて死んだという。遺書はなく、死なねばならない理由もなく、強いて言えば失恋。羽田涼子と柿沼利夫との三角関係の敗者としての悲劇の結果。

 息子の死の真相を突きとめるため、長年一級和裁士として働いてきた京都の繊維問屋を六十歳で退職することに決めた雅代がすぐに手をつけたことは、柿沼利夫と涼子の日常を調べることだった。

 利夫は母校である金沢芸術大学で美術科の准教授。その大学は彼の妻涼子と圭介の母校でもあった。圭介と利夫と涼子は同じ大学で美術を学んだだけでなく、三人は特別に仲が良かったという話を雅代は圭介から聞かされていた。

 堀雅代は名前を堀田雅代に変えて、モロミ館の管理人として就職した。

 金沢芸術大学情報管理部の講師薄井宏之が、かなり昔から研究室にあったらしい教授のお古を譲り受けたロッカーから出てきたのは、埃まみれの新聞紙と布に包まれた直径二十数センチの灰白色の色調の円形の白磁の皿だった。

 雅代が夢二館で働く二十歳の美津と出会ったとき物語は動きはじめる。

 本篇は高麗白磁の北からの密輸ルートが示唆され、柿沼利夫の手紙で圭介の死の真相が明かされて結末を迎える。

2017年12月3日 初版第1刷発行

[ 2018/05/14 01:00 ] 国内の作家の本 高樹のぶ子 | TB(-) | CM(0)

「パリのすてきなおじさん」 文と絵・金井真紀 案内・広岡裕児

「パリのすてきなおじさん」
文と絵 金井真紀
案 内 広岡裕児
発行所 柏書房


 無類のおじさんコレクター金井真紀が、パリ在住40年のジャーナリスト広岡裕児と一緒に作った「パリのおじさん」コレクション。

 好奇心、広岡裕児が自在に操るフランス語、金井真紀の選おじさん眼を携えて、パリの街を歩きまわり、おもしろいはなしをしてくれそうなおじさんを探した。二週間の取材で集めたおじさんは67人。

 章立ては、「おしゃれなおじさん」「アートなおじさん」「おいしいおじさん」「あそぶおじさん」「はたらくおじさん」「いまを生きるおじさん」。

 フランスの対岸は地中海をはさんでアフリカ。フランスは陸続き。パリはフランスの首都。登場するおじさんの出自はさまざま。章立てされたおじさん分類の枠組みでは収まりきれないおじさんたちの背後にあるものの数々。

 選ばれたおじさんの人と形を印象鮮明な似顔絵と文章で描くと同時に、おじさんの背景、フランスという国の成り立ちと奥の深さまでもが表現される。

 登場するおじさんのルーツはばらばら。
 肌の色もばらばら。
 宗教もばらばら。
 職業もばらばら。

 広岡裕児の「取材後記」、金井真紀の「あとがき」はそれぞれ印象的なことばで締めくくられる。

 これは、パリの旅日記ではない。パリはあくまでも手段に過ぎない。この旅は、人間というもの、生きるということの破片を集める旅だった。(広岡裕児)

 世界はいろんな色をしている。そのわくわくする事実を、多くの人に味わっていただけたらと願う。(金井真紀)

2017年11月10日 第1刷発行

[ 2018/05/12 02:00 ] 国内の作家の本 金井真紀 | TB(-) | CM(0)

藤沢周平 「又蔵の火」

「又蔵の火」
著 者 藤沢周平 (ふじさわ しゅうへい)
発行所 文春文庫


 藤沢周平にとって二冊目の作品集。
 直木賞受賞後の作品2篇と受賞前の作品3篇を収める。

 目 次
又蔵の火
帰郷
賽子無宿
割れた月
恐喝

あとがき
 解説 常盤新平

 著者があとがきで書いているとおり、どの作品の主人公も、暗い宿命のようなものによって背中を押されて生き、あるいは死ぬ。当時の作者の中に、書くことでしか表現できない暗い情念があって、いずれの作品もその暗い情念が産み落としたものだからだろうという。

「又蔵の火」
 家の面汚しとして死んだ兄万次郎の仇を打つために、又蔵は鶴ヶ岡の町へ帰って来た。

「帰郷」
 無職渡世、もと木曾福島宿の漆塗り職人宇之吉が故郷を出たのは二十六の時だった。

「賽子無宿」
 壺振りをしていた喜之助にとって二年ぶりの江戸の町だった。

「割れた月」
 島で赦免を言い渡された鶴吉は五年ぶりで六間堀町の長屋に帰ってきた。

「恐喝」
 賭場で毟りとられて一文なしの竹二郎の向う脛に一枚の端切れ板が突き当たった。

 どの作品も絶望的な結末。

 そのなかで唯一、主人公の幸福感を感じさせる作品が「帰郷」。

 「仮に父親だとしても、いまごろひょっこり帰って来て親父面をしようというのは、虫がよすぎやしないかね」と言っていたおくみだが、

「行っちまえ、行ってどっかで死んじまえ」
 宇之吉は振り向いて微笑した。いまほど、おくみがぴったり寄りそってきていることを感じたことはなかった。途方に暮れたように、おくみを抱きとめている源太にうなずくと、宇之吉はまた背を向けた。(165ページ)

 どの作品の主人公も極道に身を窶すのだが、極道の極みが賭博。賽子賭博のなれの果てを、あたかも作者が現場で賽子を振っているかのような克明な筆致で書き記す。結局、賭博で稼げるのは胴元だけ。

 賭博の胴元といえば、カジノ法案。

 政府が、カジノ法案を閣議決定し、国会に提出したとか。全国3カ所を上限にIRを整備し、日本人と国内居住の外国人が入場する際に6,000円を徴収することなどが柱という。

 所詮潤うのは、カジノ法によって政府のお墨付きを得る業者と業者からの上納金を得ることができる為政者。「カジノ」とカタカナ書きにすれば、その罪悪性が薄れるとでも思っているのかもしれないが、所詮賭博。政府が賭博業者にお墨付きを与えれば、国民の賭博熱を煽り立てることになろう。

 例えば、宝くじ。貧乏人にとって一攫千金できるかもしれないまたとないチャンス、それが宝くじ。しょせん賭博に入れ込むのは貧乏人。金持ちはカジノなんて見向きもしないだろう。

 入場料に6,000円かかろうが、週の入場回数に制限があろうが、一攫千金をねらう貧乏人は借金をしてでもカジノという洗練された名称の賭博場へ通うだろう。そして賭博場周辺にはサラ金業者が軒を連ねてひしめき合う。

 金融機関にとっても起死回生のチャンス。
 自業自得とはいえ泣きを見るのは貧乏人。
 民(たみ)の生き血の上に成り立つ国起し。

刑法 第186条
1.常習として賭博をした者は、3年以下の懲役に処する。
2.賭博場を開張し、又は博徒を結合して利益を図った者は、3月以上5年以下の懲役に処する。

 刑法もまた政府と賭博業者にとって都合のよいように改悪されるに違いない。

 本書を読んで初めて知った言葉が手目。
 「てめし」とルビ打ちされているが、

【手目】てめ
①博打で、いかさまをすること。
②ごまかし。いんちき。(スーパー大辞林3.0)

 今どきのカジノ、壺振りによる賽子賭博などないだろうが、コンピュータ制御となれば、いかさまなどお手のものといえるだろう。

2006年4月10日 新装版第1刷

[ 2018/05/10 20:00 ] 国内の作家の本 藤沢周平 | TB(-) | CM(0)

藤沢周平 「藤沢周平句集」

「藤沢周平句集」
著 者 藤沢周平 (ふじさわ しゅうへい)
発行所 文春文庫


 本書が単行本として発刊されたのは1993年3月だが、文庫化にあたり〈「馬酔木」より〉と〈「俳句手帳」より〉に示した俳句を追加したという。

 興味を持ったのは〈「俳句手帳」より〉の俳句。

 その箇所の前書きを抜き出すと、

 角川書店が発行していた、俳句を記すための欄をもつ「俳句手帳」の昭和53年版に、30句が並べて書かれていた。作家になってからの句作と推定されるが、確証はない。(106ページ)

 私が角川書店発行の「俳句」を読んでいた頃、「俳句手帳」は雑誌「俳句」新年号の付録として添付されていたので〈「俳句手帳」より〉の俳句は昭和53年以降の俳句と思われる。

 藤沢周平の作品が書かれた時期を調べてみると、小説「一茶」を「別冊文藝春秋」に連載したのは昭和52年春から一年間。

 俳句の季語をタイトルに据えた掌篇「江戸おんな絵姿十二景」を「文藝春秋」に連載したのが昭和56年3月号から昭和57年2月号にかけて。

 「江戸おんな絵姿十二景」では季語の本意を活かした俳句的手法が遺憾なく発揮されていると思ったのだが、そういうことだったのか。

 〈「俳句手帳」より〉の俳句は藤沢周平がひとつの季語でいくつか作った俳句を推敲した最終推敲だったと思われる。

 例えば、「雪女」

雪女風寒き夜は泣きにけり

雪女去りししじまの村いくつ

雪おんな去りて静まる夜の村

雪女去れば灯もどる村いくつ

 例えば、「黄菊」

曇り日の一隅光る黄菊かな

曇り日の一日黄菊光おり

曇り日のされど黄菊の光かな

曇り日のされど黄菊の黄の光

曇り日にされど黄菊の群光る

曇天に暮れ残りたる黄菊かな

曇天の黄菊の光暮れ残る

 ひとつの季語から見えてくる景色をいくつも書きとめることは、俳句に造詣のある者なら誰もが行っていること、藤沢周平もまた然り。

 小説「一茶」を執筆するにあたって再び俳句に取り組み、その後も人知れず継続して俳句に取り組み続け、その成果が「江戸おんな絵姿十二景」として結実したのではないだろうか。

 「江戸おんな絵姿十二景」は冗長な表現を排除した俳句的作品である。簡潔な表現で視覚、触角、聴覚を刺激する。

 〈「俳句手帳」より〉の俳句から藤沢周平の作品の執筆過程の一端を知ることができる。まだ発掘されていないだけであって、このころ藤沢周平が作った俳句作品がどこかに埋もれているのかもしれない。

 藤沢周平が作った「雪女」と「黄菊」の句からそれぞれ一句だけ選ぶとすれば、

雪おんな去りて静まる夜の村

曇天に暮れ残りたる黄菊かな


  目 次

 「海坂」、節のことなど
「海坂」より
「のびどめ」より
拾遺
「馬酔木」より
「俳句手帳」より
随筆九篇

 小説「一茶」の背景
 一茶とその妻たち
 心に残る秀句
 稀有の俳句世界
 青春と成熟――鑑賞・森澄雄の風景
 初冬の鶴岡
 初夏の庭
 晩秋の光景
 日日片片

解説     清水房雄
文庫解説   湯川 豊

2017年9月10日 第1刷

[ 2018/05/07 10:00 ] 国内の作家の本 藤沢周平 | TB(-) | CM(0)
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きどのひつじ

Author:きどのひつじ
散歩すると猫に会う。
いつもの場所にいつもの猫がいるのだが、人間とは付かず離れずの関係を保ちつつ生きているように思われる。

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