たとふれば猫かもしれず

見たり、読んだり、思ったり。

樋口明雄 「許されざるもの」

「許されざるもの」
著 者 樋口明雄 (ひぐち あきお)
発行所 光文社


 「約束の地」の続編。

 絶滅のかの狼を連れ歩く  三橋敏雄

 1905年、奈良県東吉野村で捕えられた雄の狼が、日本で最後の捕獲記録。日本で絶滅した狼を日本の山に復活させようという壮大な、あるいは荒唐無稽な計画が作品のメインテーマ。読み始めるや否や、ワクワクどきどきしながら、その日のうちに読み終えることができた。

 惜しむらくは、本書でもアイテムの一つとして無線機が登場するのだが、その記述に違和感を覚えてしまう。その箇所を抜き出してみると、

 新海が車から八木アンテナと携帯用受信機を持ってきた。八重洲無線というメーカーのFT-817という受信機は、今では野生動物調査における、お馴染みの機種である。テレメトリー調査のために動物につけた首輪が発信する電波は、144MHz帯のFM波の中でもLSBという特殊な波長であるために、通常のFM受信機では捉えることができない。
 六素子の折りたたみ式八木アンテナを開いて、左右に振りながら、新海がクマの居場所を探査し始めた。対象はまだ近くにいるらしく、すぐに断続的なビーコンが受信機に飛び込んでくる。(本書35ページ)

 アマチュア無線の世界で代表的な電波形式といえば、CW、SSB、FM。SSBはLSBとUSBに分類され、6ⅿ(50MHz帯)より波長が短いVHFではUSBが使用される。となれば、「144MHz帯のFM波の中でもLSBという特殊な波長である」という記述は文意不明で理解しがたい。

 次に、「すぐに断続的なビーコンが受信機に飛び込んでくる」という箇所。ビーコンを日本語で言い換えると、無線標識。ビーコンを受信することによって、その周波数の電波状態や電波が発射されている方向を特定することができる。ビーコンの電波形式はCW(電信)。

 再度確認しておくと、CW、SSB(LSB、USB)、FMは電波形式が異なっている。したがって、「テレメトリー調査のために動物につけた首輪が発信する電波は、144MHz帯のFM波の中でもLSBという特殊な波長であるために、通常のFM受信機では捉えることができない。」という記述は理解不能となる。

 例えば、「テレメトリー調査のために動物につけた首輪が発信する電波は、144MHz帯のなかでもCWという特殊な電波形式であるために、通常のFM受信機では捉えることができない。」という記述なら理解できるのですが。

 50MHz帯の代表的なビーコンは2エリアで発射されているJA2IGYのビーコン。

トトトツー
トトトツー
トトトツー
ツートト

トツーツーツー
トツー
トトツーツーツー
トト
ツーツート
ツートツーツー

(繰り返す)

 本書21ページの記述、「別の牝の個体がFM波の発信機をつけていたので」という箇所でも違和感を覚えたので、ビーコンといえばCW、FMはあり得ないと、wikiで「雪崩ビーコン」を検索してみたところ、「雪崩ビーコン(なだれビーコン)は、雪崩により雪中に埋没した人の捜索のために作られたトランシーバの一種。中波(MF)に分類される457kHzの微弱電波を利用することが世界的に規格化されている。」という記載。

 中波(MF)をFMと混同されているのかもしれませんね。

2014年7月20日 初版1刷発行

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[ 2018/04/16 16:00 ] 国内の作家の本 樋口明雄 | TB(-) | CM(0)

宮城谷昌光 「楽毅」 (1) (2) (3) (4)

宮城谷昌光 「楽毅」 (1) (2) (3) (4)
著 者 宮城谷昌光 (みやぎたに まさみつ)
発行所 新潮文庫


 一国の宰相とは。

 森友学園を巡る財務省の公文書改ざんや、加計学園の獣医学部新設計画について当時の首相秘書官が「首相案件」と発言したとされる文書が見つかった問題を受け、安倍政権に退陣を迫る集会が14日、東京・永田町の国会議事堂前で開かれ、約3万人(主催者発表)が周辺を埋め尽くした。
 集会は三つの市民団体の共催。野党の国会議員や市民団体関係者がマイクを握り、「安倍首相は真相を解明してうみを出し切ると言うが、出すべきうみは首相自身だ」などと政権を批判した。(毎日新聞2018年4月15日朝刊社会面)

 楽毅は、古代中国の戦国期、「戦国七雄」にも数えられぬ小国、中山国の宰相の嫡子として生まれた。「三年間の留学。三年経ったら必ず帰る」という父との約束のもとに学ぶ斉の都・臨淄での日々。楽毅が己に問いかけた課題は「人がみごとに生きるとは、どういうことか」。

 楽毅が入門したのは孫子。世に孫子とよばれる大兵略家はふたり。ひとりは春秋時代の孫武。ほかのひとりは戦国時代の孫臏。孫臏は孫武の末裔。彼は孫臏の弟子のひとりに入門し、そこで孫武と孫臏の功績と戦法とを学んだ。

 斉の都に学んだ青年・楽毅を祖国で待ち受けていたのは、国家存立を脅かす愚昧な君主による危うい舵取りと、隣国・趙の執拗な侵略。

 趙の侵略はとどまるところを知らず、戦火は絶えない。中山国の君臣は方策を講じず、内外で声望のたかまる楽毅を疎んじ続け、国土の大半を失った。

 趙の苛烈な侵攻。中山国の邑は次々に落ち、中山国王も没した。祖国の存続をかけ、機略を胸に策を講ずる楽毅。しかし、ついに中山国は滅亡。

 祖国を失った楽毅。

 楽毅の将才を高く評価した燕の昭王が三顧の礼で楽毅を迎え、楽毅に大望を託したのだが・・・・・。

 孟嘗君は楽毅の年長の同時代人。

「楽毅」 (1) (2) 2002年4月1日 発行
「楽毅」 (3) (4) 2002年5月1日 発行







[ 2018/04/15 04:00 ] 国内の作家の本 宮城谷昌光 | TB(-) | CM(-)

桜木紫乃 「砂上」

「砂上」
著 者 桜木紫乃 (さくらぎ しの)
発行所 角川書店


 「砂上」という言葉を聞いて連想するのは「砂上の楼閣」というフレーズ。スーパー大辞林3.0によると「砂上の楼閣」とは、①基礎がしっかりしていないために崩れやすい物事のたとえ。②実現または永続不可能な物事のたとえ。空中楼閣。

 本書で使われた「砂上」の意味するところは。砂の上を歩くのは、なかなか難儀。砂に足がめり込むゆえ、足取りをしっかりしなければ歩きづらい。だが、足元を踏みしめれば、その歩みは確実なものとなり安定する。

 作家になることを夢見つつ小説モドキを書いていた主人公が如何にして作家になったか、その過程が虚実ないまぜにしながら小説に仕立てあげられた。主人公の着実な歩み。作家になるとは、人に読ませる小説を仕立てあげるとはかくも残酷なものであった。

 他人の不幸は蜜の味。実生活でそんな不幸がコロコロ転がっていることなんてあり得ない。他人の不幸を味わいたいがために、人は小説を読むのかもしれない。とすれば他人の不幸の源とは。人の不幸を如何に効果的に提示するか、すべては作家の手練手管にかかっている。

 文芸誌の新人賞に応募し続けていた柊令央(ひいらぎれお)の前に現れた女性編集者・小川乙三(おがわおとみ)が発したキーワードは「主体性のなさって、文章に出ますよね」。

 「主体性のある文章」とは。

 読者が望むのは毒のある小説。作者が捏造する毒が読者にこのうえない快感をもたらす。読者を、作者が捏造した毒の虜にさせることができたとき、作者もまた物語を紡ぎだす快感を味わっているに違いない。他人の不幸は蜜の味というが、他人の不幸をどれだけ仕入れることができるか。仕入れた不幸を如何に調理するか。ひとつの不幸から百の不幸を捏造することができるようになったとき、作家として大成できるのかもしれない。

 不幸という名の毒。その毒は、すぐに毒と感知されてはならない。真綿で首を締めるという表現があるが、小説に仕込まれる毒もまた真綿でなければならない。

 圧倒的な読後感とともに読み終える作品世界の始まりは、一見、平凡なものであった。平凡のなかの非凡。


 雪は、舞い始めてから数住んで根雪を約束しそうな降りに変わった。
 柊令央(ひいらぎれお)は喫茶店の窓辺から、すっかり色が消えた空を見た。この先は、根雪が空に呼びかけるせいで毎日雪が降る。
 女がひとり店に入ってきた。・・・・・


 作品の舞台は、著者が住む北海道(江別市)。主人公は柊令央。柊、木偏に冬。柊という苗字から連想するのは寒冷地。令央、レオ。レオナ、たとえば漢字を当てはめて玲於奈なら女性。レオという音から、男性かと思ったが女性が主人公。そういえば、ジャングル大帝レオ。そしてまた令央という単語から連想するのは道央、北海道の中央、札幌を中心とした辺り、著者の住む江別市もまた道央。

 徹底して寒冷地に拘った名前。

 今どき喫茶店とういうレトロな待ち合わせ場所。スターバックスでもなくマクドでもない。季節はこれから根雪を迎える本格的な冬直前。待ち合わせ場所に現れたのは「女がひとり」。

 何気なく読めば読み飛ばしそうな表現ながら、深読みすれば意味深長な表現。ゾクゾク、ワクワク。桜木紫乃作「砂上」。小説内小説、柊令央作「砂上」。小説は毒がなければ面白くない。

 小説家はマゾヒスト、編集者はサディスト。サディストとマゾヒストの息の根がピッタリ合ったとき最高の快楽、傑作が生み出される。

 全篇を貫くテーマは主体性。

 小川乙三のアドバイスを受けいれることによって小説のみならず生き方に主体性を獲得していく主人公。片や主体性の欠片すらない男たちと男の嫉妬。その対極の妙味。極めつけは、令央が毎年応募していた会社の文芸編集部の男性編集者。嫉妬の権化。

2017年9月29日 初版発行

[ 2018/04/08 13:00 ] 国内の作家の本 桜木紫乃 | TB(-) | CM(-)

樋口明雄 「天空の犬」

「天空の犬」
著 者 樋口明雄 (ひぐち あきお)
発行所 徳間書店


 「南アルプス山岳救助隊K-9」シリーズ第一作。

 本書の初刷は2012年8月31日。八月下旬といえば、ちょうど夏山シーズンが終わり、高山帯では秋本番を迎えるころ。本書をきっかけに秋の北岳へ向かった人もいただろう。

 シリーズ化される前の山梨県警察南アルプス署地域課 広河原警備本部 白根御池小屋警備派出所 夏山常駐隊のようす、なかでも、星野夏実、神崎静奈、深町敬仁など、シリーズとして読み続ける場合、欠かすことのできない登場人物の内面世界を、その心模様を知ることができる。

 第一作としての本書を読むことによって、その後、いわくありげに書かれたことについて、「そうだったのか」と納得することができた。

 すぐれた小説として大成できるかどうかは、読者を第三の登場人物として、小説世界の一員になりきらせることができるかどうかにかかっているようだ。読者をしてその場にいるかのように感じさせてしまう臨場感。仮想世界ながら、読むことによって実体験しているという共感覚を得ることができれば、その小説の面白さは際立ったものとなる。

 すぐれた作品は読者を小説世界の登場人物のひとりにしてしまうのである。

2012年8月31日 初刷

[ 2018/04/06 20:00 ] 国内の作家の本 樋口明雄 | TB(-) | CM(-)

宮城谷昌光 「晏子」 (1) (2) (3) (4)

宮城谷昌光 「晏子」 (1) (2) (3) (4)
著 者 宮城谷昌光 (みやぎたに まさみつ)
発行所 新潮文庫


 中国・春秋時代の斉の政治家、晏弱(あんじゃく)・晏嬰(あんえい)父子を題材とした小説。

 春秋時代(紀元前770年~紀元前403年)
 晏弱( ? ~紀元前556年)
 晏嬰( ? ~紀元前500年)

 「単行本あとがき」によると、

 歴史小説は感動を書くものだといわれる。
 そうだとすれば、自分の魂をゆさぶった人物を書くべきであろう。
 わたしにとって晏嬰はまさにそのひとりであった。
 ――晏嬰を書きたい。

 そんな作者の感動が読者に伝わり、図らずも読者が心の襞を震わせ、小説の登場人物に作者の主観が込められていたとしても、小説とは作者の主観そのものなのだが、読者が登場人物の事績をほんとうにそうであったかもしれないと思いながら、物語に耽溺する時間を得ることができたとき、読者は歴史小説を読む醍醐味を得たことになる。

 晏嬰の身長は、六尺(1m35㎝)に満たなかったと、いわれる。晏嬰が斉の宰相になったころ、魯の出身である孔子は二十代、かれの身長は九尺六寸(2m16㎝)だった。晏嬰が生まれたとき、その大きさは晏弱の大きな掌にすっぽりおさまりそうな小ささだったという。

 春秋時代という中国の乱世の時代、身長で人から侮られることの多かった晏嬰が、国家の危局では言葉の武勇、言葉のドラマを演じる。主君を諫めるときは、その顔色をも顧みず、仕えた三代の君主、霊公に、荘公に、景公に歯に衣を着せずNOを言い続けた。

 晏嬰の同時代人として鄭の子産がいる。そしてまた作者自身が『子産』を書いているのだが、その子産以上に作者のリスペクトしている人物が本書で主役を演じる晏嬰なのだ。

 本書を通読して脳裏に残った単語のひとつが【社稷】。
 【社稷】の意味を電子辞書「スーパー大辞林3.0」で調べてみると、

【社稷】
①土地の神(社)五穀の神(稷)。昔、中国で建国のとき、天子・諸侯は国家の守り神としてこの神々を祀った。
②国家。朝廷。
③朝廷または国家の尊崇する神霊。

 現在ではもっぱら②で用いられているようだが、第四巻の池田雅延の解説がよく分かる。

 もしも国家がついえれば、国民は亡国の民となって困窮におちいる。国家が達者でありさえすれば、少なくとも民はその困窮を免れる。民が困窮を免れるかぎりは、かつがつとはいえ天意にかなう。君主は、民の上に立ってはいるが、国家に仕える者である。臣下は君主に仕えているが、それは国家を養うためにである。ゆえに、君主への叛逆は、いかなる事由があろうと叛逆である。無辜の民を、困窮に追いやる暴挙だからである。(第四巻393ページ)

 現代の日本という国家、主権がほんとうに国民にあるのであれば、為政者が私利私欲を持つなどあり得るはずがなく、国会で虚言を弄することもまたないはずである。ところが一国の首相、「税収というのは国民から吸い上げたものであります」などという言葉を吐き、己にとって都合の悪いことに対しては、知らぬ存ぜぬを連発する。無辜の民が大半を占める私たち国民に待ち受けている未来は。

 本日(2018年3月31日)の毎日新聞の記事によると、麻生太郎副総理兼財務相が29日の参院財政金融委員会で「TPP11」の署名式を巡る報道について、「日本の新聞には一行も載っていなかった」と述べたという。

 以下の報道を毎日新聞から引用すると、

 しかし、8日(日本時間9日)にチリで行われた署名式について毎日新聞、朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞などは9日付夕刊や10日付朝刊で報じている。
 30日の参院財政金融委員会で「(署名式は)1面トップを飾ってもおかしくない記事。日経新聞でも3面でしたかね。1面に載っていなかったので一行も載っていなかったと申し上げた」と弁明したが、日経は朝刊1面に掲載した。
 毎日などの10日付朝刊1面トップは佐川宣寿前国税庁長官の辞任だった。

 同じ紙面に、「麻生氏の発言内容」が「麻生太郎副総理兼財務相の29日の参院財務金融委員会での答弁は次の通り」として載っている。

 今、「TPP11」というのが日本の指導力で間違いなく締結された。こないだ茂木大臣(経済再生担当相)、0泊4日でペルー(正しくはチリ)往復しておりましたけど、日本の新聞には一行も載っていなかったですもんね。本人としては、甚だ憤まんやるかたなかったんだと思いますけど。
 まあ、日本の新聞のレベルってのはこんなもんなんだなと思って、経済部のやつにぼろかすに言った記憶ありますけど。みんな、森友(学園)の方がTPP11より重大だと考えているのが日本の新聞のレベル。政治部ならともかく経済部までこれかと、おちょくりにおちょくり倒した記憶がありますけど。これはものすごく私は大きかった条約締結の一つだったと思う。(毎日新聞13版第5面)

 同じ内閣の閣員でありながら、条約の締結された国がチリかペルーかも分からず、日本の大臣のレベルってのはこんなもんなんだなと思っているのは、私だけではあるまい。日本は言霊の幸ふ国(ことだまのさきはふくに)のはずなのに、これでは言葉に呪力の帯びようがなく、幸福は逃げ去るばかり、国民に待ち受けているのは暗澹たる世の中だけなのかもしれない。

 本書は混迷の時代を生きぬくに際して、座右の銘となり得る晏弱・晏嬰そして著者の名句名言に満ち満ちている。

「晏子」 (1)・(2) 1997年9月1日 発行
「晏子」 (3)・(4) 1997年10月1日 発行







[ 2018/03/31 14:00 ] 国内の作家の本 宮城谷昌光 | TB(-) | CM(-)

樋口明雄 「レスキュードッグ・ストーリーズ 南アルプス山岳救助隊K-9」

「レスキュードッグ・ストーリーズ 南アルプス山岳救助隊K-9」
著 者 樋口明雄 (ひぐち あきお)
発行所 山と渓谷社


 「南アルプス山岳救助隊K-9」シリーズ、連作短編12作。

 読み始めたが最後、読み終えてしまうまで連続した緊張感を強いられるアクションシーン満載ということはなく、しっとりとした落ち着きと味わいで読ませる短編連作集。

 「約束の地」で主人公を演じた七倉航が登場したり、オカルト的な作品があったりと長篇とは違った仕上がりを見せる作品集。

「遺書」
 長谷部道夫48歳。五年前に離婚。元妻は老いた母親とふたり暮し。ふたりの娘はすでに独立。十月下旬の北岳を下山中、十数メートル滑落し、寒さと痛みに耐えながら最初の一夜を明かした。

「山の嫌われ者」
 斉藤五十六の誕生日は10月23日。77歳の誕生日に北岳登頂56回を目指しているのだが・・・・・。

「青天の霹靂」
 要救助者をピックアップした県警ヘリ〈はやて〉見送ったあと、天候が急変、いきなり雷鳴が轟き大粒の雹までもが落ち始めた。救助にあたった進藤諒太隊員と救助犬のカムイ、曽我野誠隊員が肩の小屋に飛び込んだとき、横森一平隊員の姿がなかった。

「神の鳥」
 著者が第12回大藪春彦賞を受賞した「約束の地」で主人公を演じた七倉航が登場。前作で暗示されたように、彼は野生鳥獣保全管理センター八ヶ岳支所長としての二年の任期を終えたあと、ひとりの野生鳥獣保全管理官として野生鳥獣保全管理センター八ヶ岳支所にとどまっていた。

「霧の中に・・・・・・」
 十月半ば、星野夏実は斜面を下るトレイルの途中の人影に気づいた。青いチェックの登山シャツを着て四十リットルぐらいのザックを背負っている。背を向けて立っていたので、思い切って声をかけたのだが・・・・・。

「帰ってきた男」
 吊尾根分岐から八本歯のコルへ向かう途中、足がもつれ懸崖を滑落した染川知道。気絶から目覚めると、全身打撲と無数の擦り傷。奇跡的に骨折などの重篤な怪我をしておらず、自力歩行が可能だった。遭難して三日目、意識朦朧としたまま自宅に帰りつくと、彼の葬儀が始まっていた。

「父の山」
 弟からの電話によると、深町敬仁の父が北岳に行くといって、今朝、ザックを背負って家を出たという。

「サイバーズ・ギルト」
 四月、北岳で遭難事故が起こった。亡くなった登山者の名は飯田光義。生還したのは輿水雅人。ともに42歳。ふたりは交付の商社に勤める会社員で、学生時代からの登山仲間だった。

「辞表」
 星野夏実と神崎静奈のふたりが機動隊の警備に呼集されたのだが・・・・・。

「向かい風ふたたび」
 北岳での救助活動中に、星野夏実の救助犬メイが怪我をした。メイを残して白根御池の警備派出所にもどるわけにいかないので、ほとんど消化していなかった年次休暇をとり、夏実はメイとともに古い友人がいる瑞牆山の別荘地に向かった。

「相棒(バディ)」
 進藤諒太は悪性腫瘍が見つかった救助犬カムイとともに二月の北岳に向かった。

「夏のおわりに」
 山岳救助隊の同僚らとともにパトロールに出発した星野夏実は野呂川の渓で、ひとり右手に持った細くしなやかなロッドを前後に振るフライフィッシャーの姿に見とれていた。

2017年5月1日 初刷第1刷発行

[ 2018/03/24 17:00 ] 国内の作家の本 樋口明雄 | TB(-) | CM(-)

高橋順子 「夫・車谷長吉」

「夫・車谷長吉」
著 者 高橋順子 (たかはし じゅんこ)
発行所 文藝春秋


十一月十五日、大安、
区役所に行って
入籍した。
これから何年
いっしょに暮らせるか
分からないが、
私は長吉を見届ける
つもりだった。

 この世のみちづれ。1988年9月12日、東京本郷の消印がある絵手紙をもらったのが、最初だった。高橋順子44歳、車谷長吉43歳。11通目。最後の絵手紙が届いたのは89年7月。

 1993年、婚約・結婚。

 名月や石を蹴り蹴りあの世まで  長吉

 2015年5月17日、車谷長吉死去。

 強迫神経症を抱え込んだ異色の作家・車谷長吉を支えぬいた妻である詩人・高橋順子による回想。常軌を逸した日々の連続。たまゆら訪れる平穏な日々。車谷長吉の作品への理解を深めることができる。

2017年5月17日 第1刷発行

[ 2018/03/23 17:00 ] 国内の作家の本 高橋順子 | TB(-) | CM(-)
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きどのひつじ

Author:きどのひつじ
散歩すると猫に会う。
いつもの場所にいつもの猫がいるのだが、人間とは付かず離れずの関係を保ちつつ生きているように思われる。

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