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たとふれば猫かもしれず

見たり、読んだり、思ったり。

「視える女」 ベリンダ・バウアー

「視える女」 
著 者 ベリンダ・バウアー
訳 者 満園真木 (みつぞの まき)
発行所 小学館文庫


 本作は2015年の英国推理作家協会(CWA)ゴールドダガー賞の最終候補に選出されている。『ダークサイド』に登場したマーヴェル警部を再登場させた理由に関連して著者は「訳者あとがき」で、

霊能力を題材に用いるにあたって、超自然的でミステリーとしてアンフェアな物語だというレッテルを貼られないために、そういった事象にきわめて懐疑的な人物の視点から語らせ、超自然的な要素抜きでも事件を解決に導けるようにすることが必要だったためです

と語っているけれども、事件解決の糸口に霊能力が大きな比重をしめている本作においては、まさに著者が懸念した通りの結果、アンフェアな物語になってしまったようだ。

 『ダークサイド』において多重人格が主要なテーマとなったとき、そこまでの多重人格がほんとうにあり得るのだろうかと思った以上にアンフェアな気持ちを払拭することができない。

 本作はミステリーというよりも、最初からファンタジーとして読めば違和感を抱くことはないだろうが、読者がベリンダ・バウアーに期待するのは『ブラックランズ』とか『ラバーネッカー』のような作品なのではないだろうか。本作については残念至極としか言いようがない。

 ちなみに2015年にゴールドダガー賞を受賞した作品はマイケル・ロボサムの『生か、死か』。現金輸送トラック強奪事件の犯行グループのひとりとされ、懲役10年の刑に服していた男が、刑期満了の前日に刑務所から脱走したという物語。

 もう一日待てば、大手を振って出所できるというのに、彼はなぜ脱獄したのか。確かにマイケル・ロボサムの『生か、死か』はゴールドダガー賞にふさわしい作品でした。

 2016年に英国で出版されたベリンダ・バウアーの長篇第7作 The Beautiful Dead が翻訳出版される日を待ちたいと思います。

 ロンドン警視庁の警部マーヴェルは列車に飛びこもうとしている若い女アナを見かけて自殺を止める。

 アナの4歳の息子ダニエルは4カ月前から行方不明になっていた。ある朝、仕事に出かけるアナの夫が玄関のドアを閉め忘れ、ダニエルはそこから出たきり姿を消した。家の隣の自動車整備工場の敷地で、たまたまその日に流しこんだばかりだったセメントに小さな五つの足跡を残して。

 一方のマーヴェルも、いなくなったある子どものことが頭から離れない。一年余り前に、登校の途中で行方がわからなくなった12歳の少女イーディ・エヴァンズの事件。

 ふたつの事件を結びつけたのはレイサムという霊能者の存在。霊能者の力、霊能力とは本物なのか、そしてふたりの子どもの行方は。

訳者あとがき

2016年8月10日 初版第1刷発行

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「ニック・メイソンの脱出への道」 スティーヴ・ハミルトン

「ニック・メイソンの脱出への道」 
著 者 スティーヴ・ハミルトン
訳 者 越前敏弥 (えちぜん としや)
発行所 角川文庫



 「ニック・メイソンの第二の人生」に続くニック・メイソン・シリーズの第二作。

 連邦捜査官を殺したという罪で収監され懲役25年の刑期を言い渡されていたニック・メイソンが、同じ刑務所に収容されていたシカゴのギャングの大物ダライアス・コールと契約を交わし、塀の外に出たのは5年ぶりたった。

 その契約とは、5年で出所する代償として、どんな命令であろうとコールに従い、その手足となって働くことだった。

 本編で受ける新たな任務とは、雇い主であるコールを刑務所へと導いた検察側の証人を暗殺することだった。連邦政府による証人保護プログラムによって保護されている人物を殺すのは至難の業である。だが、メイソンは難題を実行していった。

 そして、忠実に任務を果たしながらも、コールの支配から脱出する計画を密かに練っていく。これがタイトル「脱出への道」の由来。

 再審無罪を勝ち取ったコールとメイソンとの対決。
 これで結末かと思われたときにコールが発した言葉、

「これはきみの最終審査だった」「合格だ」

 シカゴを牛耳っていたコールですら組織の末端。コールを射殺しながらもメイソンに負わされた新たな任務。メイソンはジャカルタへ向かった。どんな展開が待っているのか。

 物語の舞台はシカゴを超越し、世界規模で展開する様相をみせてきた。

 「訳者あとがき」によると、2019年春にニック・メイソン・シリーズの第三作 An Honorable Assassin を発表する予定になっているという。

訳者あとがき

2018年6月25日 初版発行

「静かな水 正木ゆう子句集」 正木ゆう子

「静かな水 正木ゆう子句集」 
著 者 正木ゆう子
発行所 春秋社


水の地球すこしはなれて春の月

 本書巻頭の句。

 はじめてこの句を読んだとき、直感的にスゴイと思ったことを今でも覚えている。何をスゴイと思ったのか、今では忘れてしまったけれども、とにかく感服した。

 造物主の視点。宇宙から地球を見る。青い地球。水が存在するからこその青々とした地球。水分たっぷり、湿り気たっぷりの惑星。少しだけ視線を逸らせてみると、そこには地球の周りを廻る月。

 そして一気に地上に降り立ち、視点を転じて、地球からの月。水があるからこその春の月。春の月といえば朧月。春の夜のほのかにかすんだ月が見えてくる。

 「水の地球」「春の月」から滔々とした春の朧月夜の景色が目の前に迫ってくる。上手いとしか言いようがない。

夜桜に背広の冷えて帰宅せり

母の日の母にだらだらしてもらふ

しづかなる水は沈みて夏の暮

 著者は「あとがき」で句集名の由来となった句と記す。
 「あるとき、自分の感情の波立ちに疲れ、それならばいっそ波の立たない水底へ潜ればわれとわが身は鎮まるだろうと思って作った句である」という。

滴りの力抜けたるとき落ちぬ

蟬の穴あまたのひとつ鮮しき

馬の眸(め)に前髪かかる朝曇

ひまはりの上から枯れてゆく途中

一望の野の一隅の夕立かな

風音を千年聞きて滴れる

敏感な秤の発条(ばね)や小鳥来る

太陽の念力入れし唐辛子

春の月水の音して上りけり

 巻頭の句に対応させるかのような巻末の句。

2002年10月17日 初版第1刷発行

[ 2018/11/12 16:00 ] 句集・俳論・俳文など 正木ゆう子 | TB(-) | CM(0)

「壊れた海辺」 ピーター・テンプル

「壊れた海辺」 
著 者 ピーター・テンプル
訳 者 土屋 晃 (つちや あきら)
発行所 ランダムハウス講談社


ピーター・テンプル
1946年、南アフリカ生まれ。後にオーストラリアに移住。新聞や雑誌の記者・編集者として活動後、作家としてデビュー。処女作でネッドケリー賞新人賞(オーストラリア推理作家協会賞)を受賞。以後8作の長篇を発表。都合5度、ネッド・ケリー賞を受賞し、オーストラリア・ミステリ界の第一人者となる。本書で、英国推理作家協会(CWA)最優秀長篇賞を受賞、世界各国でも評価が高まっている。

 物語の舞台はオーストラリア南部ヴィクトリア州にある田舎町ポート・モンロー、そして小都会クロマティ。

 ある秋の朝、名家として知られるブルゴイン家の屋敷で、老齢の当主が瀕死の重傷を負って倒れているのが見つかった。当主チャールズ・ブルゴインは実業家として名をなしたが、現在は第一線を退き、篤志家として慈善事業の活動をしていた。

 第一発見者の通いの家政婦からの通報を受け、現場に駆けつけたポート・モンロー警察署の上級部長刑事ジョセフ・キャシンは、州警察からの直接の指示で、クロマティ署とともに捜査にあたることになった。

 被害者の唯一の身寄りである義理の娘エリカの立会いのもと、現場検証を行うが、抉じ開けられたキャビネットと、被害者の高級時計が消えているほかには、荒らされた痕跡は見当たらなかった。

 被害者の時計が、アボリジニの血をひく少年たちによって、シドニーの質屋に持ち込まれたという情報が飛び込んできた。

 ヴィクトリア州警察警部補ヴィラーニは少年たちが帰宅後二時間以上経ってから、自宅で身柄を拘束するように指示するが、クロマティ署上級刑事ホプグッドによって、少年たちが町にはいろうとするところを押さえる作戦に変更され、警察は追い詰められた少年を射殺し、一名を逮捕した。

 逮捕された少年の自殺によって幕引きをはかろうとした警察だが、キャシンは納得しなかった。単独捜査を続けて真相に迫っていく。

 2007年度の英国推理作家協会(CWA)ダンカン・ローリー・ダガー賞を受賞したということで読み始めた本書、そして三橋皢の解説によると、本作がピーター・テンプルという作家の初紹介ということだが、読み終えた印象として抱いたことは、本作はシリーズの一作かもしれないということだ。

 主人公のキャシンは登場するや否や、最初から心身にかなりの痛手を負っているようすがうかがわれる。田舎町ポート・モンローに赴任する前はかなりやり手の刑事だったようだ。そして本作では中盤以降でその辣腕ぶりを発揮させる。

 刑事事件の捜査という単調になりがちなストーリーに変化を生み出す不思議な渡りの労働者デイヴ・レッブとの出会いと存在。解説にもあるが、デイヴを主人公とした物語もまた可能となってくる。

 終盤、デイヴの印象的なことば、

「生きてることがプレゼントさ」「毎日の一時間、一分がね」

解説 三橋 皢

 三橋皢の解説がいい。

「翻訳ミステリをひもとく愉しみのひとつに、まだ見ぬ異文化との出会いがある。地球は広い、そしてそこを埋め尽くすさまざまな文化圏の拡がりもまた、無限のものがある。翻訳ミステリを手にすることは、居ながらにして見知らぬ国、見知らぬ土地へと旅する特権を手に入れることと言っても過言じゃないだろう。」

 ほんとうに翻訳ミステリは面白い。この年齢になってから、これほど翻訳ミステリを読み続けようとは思わなかった。これがどうなるかは、わからないけれども、何らかのかたちで生かされることがあるに違いない。生かされる生かされないではなく、今現在読むことがひたすら面白い。

2008年10月10日 第1刷発行

「渇きと偽り」 ジェイン・ハーパー

「渇きと偽り」 
著 者 ジェイン・ハーパー
訳 者 青木 創 (あおき はじめ)
発行所 早川書房


 著者のジェイン・ハーパーは英国マンチェスター生まれ。オーストラリアでジャーナリストとして活動。デビュー作の本書は20カ国以上での刊行が決定している。本作はゴールドダガー賞を受賞。

 「ルークは嘘をついた。きみも嘘をついた」という意味深長な手紙を受けとった連邦警察官アーロン・フォークは友人の葬儀に参列するため、オーストラリア南部ヴィクトリア州の田舎町キエワラに二十年ぶりに帰郷した。

 友人のルーク・ハドラーが二週間前、森のなかに停めた自分のトラックの荷台で、頭をショットガンで撃ち抜いた遺体となって発見された。ルークの妻と六歳の息子もまた、近くに建つ自宅でショットガンによって射殺されていた。

 トラックの荷台に残されたショットガンはルーク所有が所有していたもので、本人の指紋しか付着していなかったことなどから、警察はルークが妻子を殺害したうえで自殺したものと判断した。

 フォークは手紙の送り主であるルークの両親から、息子の死の真相を突きとめてくれと頼まれる。フォークは地元の警察官レイコーと協力し、生まれ育った町での捜査を開始するが、陰湿な妨害を受ける。

 ティーンエイジャーのころ、フォークとルークはエリーとグレッチェンというふたりの少女と親しくしていた。よく四人で遊んでいたのだが十六歳の夏、キエワラを流れる川でエリーは溺死体で発見された。

 エリーがフォークという名前の記された書き置きを残していたことから、エリーの父親のマル・ディーコンと従兄のグラントはフォーク父子を犯人扱いする人々をあおって、いやがらせを繰り返した。耐えきれなくなったフォーク父子はキエワラを逃げ出し、メルボルンへ移り住んだ。

 水事情の厳しい国オーストラリアの風土を背景としながら、捜査を進めるフォークの現在と過去、なかでも二十年前ティーンエイジャーのころの少年少女の心模様を際立たせながら物語は進行する。

 海外のミステリーを読む楽しみのひとつは、まだ行ったことのない、まだ見たことのない国の風土を登場人物を通して体験できることにある。その作品が、単なる謎解きではなく、登場人物の生の息遣いを感じることができたとき、いわゆる文学作品を読んだとき以上の感動と満足感を得ることができる。

訳者あとがき

2017年4月15日 発行

「終止符(ピリオド)」 ホーカン・ネッセル

「終止符(ピリオド)」 
著 者 ホーカン・ネッセル
訳 者 中村友子 (なかむら ともこ)
発行所 講談社文庫


〈著者〉ホーカン・ネッセル
1950年、スウェーデン生まれ。
ウプサラで20年以上、中学校教師を務める。
その後、作家活動を始め、1988年に小説『舞踏研究家』でデビュー。1993年にはミステリー『目の粗い網』でスウェーデン推理小説アカデミーの新人賞を受賞。以降、〝ファン・フェーテレン刑事部長シリーズ〟が好評を博す。第二作目の本書は、1994年の最優秀推理小説賞受賞。

〈訳者〉中村友子
スウェーデンのストックホルム大学文学科卒業。
スウェーデン語および英語の翻訳家。訳書に『ゲノムを支配する者は誰か』。共訳に『お母さん、ノーベル賞をもらう』『DNAとの対話』『脳の時計、ゲノムの時計』などがある。

 小さな漁港のある町。

 6月28日の早朝、駅裏の敷地で、ハインツ・エッガースが死体で発見された。死因は、斧のようなもので加えられた頸部への一撃。刃はまっすぐ脊椎、動脈を断ち、頸部全体をぶち切っていた。

 8月31日、エルンスト・ジンメルは恐怖を感じるひまもなく事切れただろう。鋭く研いだ切っ先が、二番目と四番目の脊椎骨の間に後ろから突き入っている。三番目の脊椎骨は真っ二つに割られ、刃はさらに首の骨、食道、頸動脈を斜めに切り裂いた。刃がもう少し深く入っていたっら、頭は完全に動体から切り離されていただろう。

 9月10日、ベアトリス・リンクスがレイスナー並木通りに車を停め、キーをロックしたとき、ブンゲ協会の鐘が11時を打った。ベアトリス・リンクスがモーリス・リューメの第一発見者であり、通報者でもあった。

 モーリス・リューメの死体は、ドアのすぐ内側に転がっていた。リューメはうつぶせに横たわり、腕は身体の下になっている。頭部は首にかろじてつながっていたが、あともうちょっと刃が深く入っていたら、首は落ちていただろう。

 事件は次々に新しい局面を見せながら展開。新しい容疑者が現れては、リストから消されていく。

 長年の経験で培われてきた直感力で、人の心の闇を暴いていくファン・フェーテレン。彼を尊敬し、ついていこうとする愛妻家の部下、ミュンスター。定年退職寸前のバウゼン署長。「自分こそが事件を解決してみせる」と野心いっぱいの女性警部メルク。

 そして、意外な結末。

 個性的な登場人物が活躍する本シリーズですが、ホーカン・ネッセルの作品で日本語に翻訳されているのは本書だけのようです。

訳者あとがき

2003年5月15日 第1刷発行

「生と死にまつわるいくつかの現実」 ベリンダ・バウアー

「生と死にまつわるいくつかの現実」 
著 者 ベリンダ・バウアー
訳 者 吉井智津 (よしい ちづ)
発行所 小学館文庫


 ライムバーンの村に住む10歳の少女ルビー・トリックは〈癒しの家〉という名の、寝室がふたつだけの小さなコテージに住んでいた。〈癒しの家〉とは名ばかり、取り壊すほうが修繕するより安くすみそうな物件だった。

 村にある二十軒あまりの民家の下には海が待ちかまえていた。夜になると、ルビーは引き潮に腹を引っぱられるような感覚に襲われた。

 もしも、外が侵入してきたら、どうなってしまうのだろう。

 ルビーの父ジョン・トリックは29歳で、ここ三年は仕事をしていない。以前は造船所で溶接工をしていたが、仕事がなくなってからは足場の組立をしていた。その仕事もなくなると、荷役をしていたが、それもなくなったあとは何もしなくなっていた。

 母アリスン・トリックが勤め先のホテルから持ち帰ってくる残り物の料理はいつもおいしくて、ルビーは夜中に起きだして食べてしまうこともあった。

 ひとり歩きの女性を狙った連続暴行殺人事件が起きる。被害者はいずれも目出し帽の男に服を脱がされ、犯行現場から、死の直前に母親に電話するよう強要されていた。

 ルビーは、民警団を立ち上げて犯人を追跡父親ジョンの小さな片腕として役に立とうとするのだが、ある夜、空想にふけっていたとき、とつぜん車の後ろで何かがぶつかるような鈍い音がすることに気づいた。

 物語が大きく転換するのは、第33章、335ページ。連続暴行殺人事件の犯人が明らかにされる。本文の総ページ数は、519ページ。残り184ページは息もつかせぬ展開。いやがうえにも増していくルビーの犯人に対する恐怖心。

 最終局面、嵐はその年いちばんの高潮と手を組んで、雨水で膨れあがった森と力を合わせ、ライムバーンを地図の上から消してしまった。海は丘の斜面をさらに上へと突き進み、〈癒しの家〉の庭の門扉をじょうごにして白い水を注ぎこみ、蝶番を壊して厳寒ドアを引きはがした。

 家が海に入っていった。

 犯人と対決するルビーと母アリスンの息詰まる結末。

 前半は根気を要するが、中盤以降面白くなってくる。確かにベリンダ・バウアーは「いま、英国でいちばん独創的な犯罪小説を書く作家」(メトロ誌)と言えるだろう。誰がこんな結末を予測し得ようか。

訳者あとがき

2015年7月12日 初版第1刷発行

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プロフィール

きどのひつじ

Author:きどのひつじ
散歩すると猫に会う。
いつもの場所にいつもの猫がいるのだが、人間とは付かず離れずの関係を保ちつつ生きているように思われる。

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