たとふれば猫かもしれず

見たり、読んだり、思ったり。

柴崎友香 「かわうそ堀怪談見習い」

「かわうそ堀怪談見習い」
著 者 柴崎友香(しばさき ともか)
発行所 角川書店


 「山だ、無線だ」と山中での車中泊を繰り返していた頃の話である。7MHzのダイポールアンテナを張りフィールドデーコンテストに参加した。コンテスト開始時間の午後9時から電信を叩き始め、午前零時はとうに経過。7MHzのコンディションも落ちてきたので車の窓のカーテンを引いて仮眠することにした。眠りこけていたと思うのだが、ふと気づくと、草木も眠る丑三つ時、話声が私の寝ている車の際を通り過ぎていく。あれは何だったのだろうか。

 「恋愛小説家」、と自分の顔写真の下に肩書きがあるのを見た谷崎さんは、今のような小説を書くのはもうやめよう、と決意し、怪談に取り組むことにした。そして二年後、ようやく単行本が世に出た。怪談作家を目指した谷崎さんの不思議体験が綴られていく。

2017年2月25日 初版発行

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[ 2017/11/19 16:00 ] 国内の作家の本 柴崎友香 | TB(-) | CM(-)

高橋一清 「近影遠影 あの日あの人」

「近影遠影 あの日あの人」
著 者 高橋一清(たかはし かずきよ)
発行所 青志社


 文藝春秋の編集者として出会った作家など数多くの人たち。それらの人たちとの関わりと思い出が、簡潔な文章で綴られる。見開き2ページという小さな文章空間に表現された個々の人たちの素顔と魅力。ちょっとした隙間時間があれば手軽に読むことができる。しかし、密度の濃い内容。本書をきっかけに未知の人物に出会うことができるかもしれない。

 例えば、山中鉄三についての記述、

 山中さんは早稲田大学で国文学を専修、大学の講師を務めた後、故郷の山口に戻り、高校の教諭になった。その授業は、教科書に載っているいい文章を選び素読に終始する。生徒は耳と目で文章に集中する。山中さんは、「いい表現だなあ」「この言葉は覚えておくといい」などと所どころで感想を述べる。これは理想の国語教育法と私は思う。(178、179ページ)

2017年9月13日 第1刷発行

[ 2017/11/11 08:00 ] 国内の作家の本 高橋一清 | TB(-) | CM(-)

酒井順子 「源氏姉妹 げんじしすたあず」

「源氏姉妹 げんじしすたあず」
著 者 酒井順子(さかい じゅんこ)
発行所 新潮社

 リアルな性描写はないものの、著者が嗅ぎとった源氏物語から漂う濃厚な性の匂い。その匂いを頼りに、紫式部の書かなかった源氏と女君たちとの性生活が著者の筆力によって生々しく再現されました。

 A男とB男という二人の男性が、かつて同じ女性と性交渉を持ったことがあるという時、A男とB男は「兄弟」と言われます。・・・・・ 同様のことは、女においてもあるわけです。ある男性がいて、C女と付き合った後にD女と付き合ったならば、C女とD女は「姉妹」ということになる。(6ページ)

 本書では、源氏の魔羅を仲立ちとして「姉妹」になった女君たちの性と本音が「独白」という形で語られます。著者によってデフォルメされた源氏物語の登場人物たち。本書を『源氏物語』を読む際の一助とすれば、より一層『源氏物語』の読みを深めることができるに違いありません。

2017年1月20日 発行

[ 2017/10/29 14:00 ] 生き方の本 酒井順子 | TB(-) | CM(-)

高橋順子 「時の雨」

「時の雨」
著 者 高橋順子(たかはし じゅんこ)
発行所 青土社


 晩い結婚の二年四ヵ月後、連れ合いとなった車谷長吉が強迫神経症を発病。緊張の日々の連続。そのときの様子を著者はあとがきに記します。

 連れ合いの書く小説には髪の毛一すじの狂気が宿っていることに、私は無意識であったわけではありません。それは、文学だと思っていたのです。生活とは別次元のものだ、と。
 ところが或る日、文学が生活に侵入してきてしまった。日常が非日常の霧におおわれてしまった、ともいえます。そのとき、人はどうするか――。
 生活を強引に文学にしてしまうこと。自分を全力で虚の存在と化し、文学たらしめること。
したがって私はこれらの作品を、なりふりかまわず、書かずにはいられなかった。

 今までに高橋順子の詩作品を読んだことのない私にとって、穏やかな平常時に作者がどのような作品を発表していたのか知らないが、この作品集だけを読む限りにおいては、非常時にこそ、その才能が遺憾なく発揮される人物のような気がする。

 平穏なときはもっぱら五感を働かせて様ざまなものに接して自らの詩心を耕す。いわば冬耕の時期。そしていざ乱世が訪れたとき、その才能が自ずから迸り出るように発揮される。

 本書の内容について見てみると、章立てはⅠからⅢ。Ⅰは結婚間もない頃の平穏な時期を表現した作品群。Ⅱは緊張の日々への移行時を表現した作品群。Ⅲでは緊張の日々を表現。

 Ⅰに収められている作品のひとつが「才能」。


才能

「おめでとう その年でお互いに
初婚とはユニーク すがすがしいわ
才能よ」
と白石かずこさんが真面目な顔で祝福してくれた
「若いうちは
膝がぶつかったくらいで結婚しちゃうのよ」
そう言ったのは新川和江さんである
でもやっぱり
油の切れた膝がぶつかったのだと思います
膝をぶつける才能ではなく
膝がぶつかる才能に
やっと恵まれたと思いましょう

1996年11月30日 第1刷発行

[ 2017/10/21 08:00 ] 国内の作家の本 高橋順子 | TB(-) | CM(-)

宮本 輝 「螢川・泥の河」

「螢川・泥の河」
著 者 宮本 輝(みやもと てる)
発行所 新潮文庫


 北陸の小都市で生まれ育ち、関西の大学への進学をきっかけに、定住の地を大阪に定めることとなった私にとって、「螢川」の舞台・富山、「泥の河」の舞台・大阪、両方とも馴染み深く、そしてまた懐かしい場所である。

 「螢川」の時代背景は昭和37年の富山。

 当時の私は小学校2年生に進級した頃。今でこそ融雪道路が縦横に走り、冬の積雪を迎えても、雪道に対する不安を感じることなく一定の速度で車を運転できるようになったものの、当時の富山のようすは、

 一年を終えると、あたかも冬こそがすべてであったように思われる。土が残雪であり、水が残雪であり、草が残雪であり、さらには光までが残雪の余韻だった。春があっても、夏があっても、そこには絶えず冬の胞子がひそんでいて、この裏日本特有の香気を年中重く澱ませていた。(100ページ)

 なかでも冬の富山は、降雪の日が続けば幾日も曇天の日々。日の目を見ることのない暗鬱な裏日本の気候そのものであった。だからこそ大量の螢を育むことができたのかもしれない。

 「泥の河」の時代背景は昭和30年の大阪。

 昭和30年といえば私が生まれた年。そんな私が関西の大学に進学したのは昭和48年。関西で迎えた初めての冬。雪が降って初めて冬の訪れを感じていた私にとって、いつまで経っても雪の降らない大阪は冬の来ない土地であった。

 冬の降雪をほとんど見ない大阪。冬といえば、曇天の空から大量の雪が降りしきる富山しか知らない私にとって、晴天の日が続く大阪は気候風土の違いという事実を超えて、気持ちのうえでも私の魂に明るさをもたらしていったような気がする。

1994年12月1日 発行

[ 2017/10/21 04:00 ] 国内の作家の本 宮本輝 | TB(-) | CM(-)

別所真紀子 「数ならぬ身とな思ひそ 寿貞と芭蕉」

「数ならぬ身とな思ひそ 寿貞と芭蕉」
著 者 別所真紀子(べっしょ まきこ)
発行所 新人物往来社


 著者によって創作された若き日の寿貞と芭蕉、おすてと甚七郎が初々しい。物語の始まりはおすて十六歳。一志郡でのしばしの夫婦生活、その後の別れ。中年になってからの再会、晩年を迎えての永遠の別れへと、物語は一気に結実する。

 寿貞と芭蕉というよりも、おすてと甚七郎に注ぐ著者の温かい眼差しが印象的な作品。

 尼寿貞が身まかりけるときゝて
数ならぬ身とな思ひそ玉まつり  はせを

2007年8月30日 第1刷発行

[ 2017/10/14 16:00 ] 国内の作家の本 別所真紀子 | TB(-) | CM(-)

髙城芳治 「野鳥の風景 髙城芳治写真集」

「野鳥の風景 髙城芳治写真集」
著 者 髙城芳治(たかじょう よしはる)
発行所 東方出版

 野鳥風景写真をライフワークにして25年余りの著者。著者の狙いは、野鳥の生態を知るために行う図鑑的な撮影と野鳥写真の芸術性を高めることができるような撮影。日本古来の絵画の世界「花鳥風月」に見られるように野鳥の世界に自然の四季彩を加えた作風の写真。

 本書では、野鳥写真の芸術性を高めることができるような作品に主体がおかれました。春夏秋冬、四季のはっきりした日本の気候風土。そのなかに野鳥を配することによって、撮影された日本の四季がより一層生き生きとしたものになっています。

2015年10月21日 初版第1刷発行

[ 2017/10/08 01:00 ] 野鳥の本 髙城芳治 | TB(-) | CM(-)
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きどのひつじ

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散歩すると猫に会う。
いつもの場所にいつもの猫がいるのだが、人間とは付かず離れずの関係を保ちつつ生きているように思われる。

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