たとふれば猫かもしれず

見たり、読んだり、思ったり。

別所真紀子 「数ならぬ身とな思ひそ 寿貞と芭蕉」

「数ならぬ身とな思ひそ 寿貞と芭蕉」
著 者 別所真紀子(べっしょ まきこ)
発行所 新人物往来社


 著者によって創作された若き日の寿貞と芭蕉、おすてと甚七郎が初々しい。物語の始まりはおすて十六歳。一志郡でのしばしの夫婦生活、その後の別れ。中年になってからの再会、晩年を迎えての永遠の別れへと、物語は一気に結実する。

 寿貞と芭蕉というよりも、おすてと甚七郎に注ぐ著者の温かい眼差しが印象的な作品。

 尼寿貞が身まかりけるときゝて
数ならぬ身とな思ひそ玉まつり  はせを

2007年8月30日 第1刷発行

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[ 2017/10/14 16:00 ] 国内の作家の本 別所真紀子 | TB(-) | CM(-)

髙城芳治 「野鳥の風景 髙城芳治写真集」

「野鳥の風景 髙城芳治写真集」
著 者 髙城芳治(たかじょう よしはる)
発行所 東方出版

 野鳥風景写真をライフワークにして25年余りの著者。著者の狙いは、野鳥の生態を知るために行う図鑑的な撮影と野鳥写真の芸術性を高めることができるような撮影。日本古来の絵画の世界「花鳥風月」に見られるように野鳥の世界に自然の四季彩を加えた作風の写真。

 本書では、野鳥写真の芸術性を高めることができるような作品に主体がおかれました。春夏秋冬、四季のはっきりした日本の気候風土。そのなかに野鳥を配することによって、撮影された日本の四季がより一層生き生きとしたものになっています。

2015年10月21日 初版第1刷発行

[ 2017/10/08 01:00 ] 野鳥の本 髙城芳治 | TB(-) | CM(-)

澤宮 優 「集団就職 高度経済成長を支えた金の卵たち」

「集団就職 高度経済成長を支えた金の卵たち」
著 者 澤宮 優(さわみや ゆう)
発行所 弦書房


 今なぜ集団就職をテーマに出版されたのか、と不思議に思いながらも一気に読み終えてしまった。昭和三十年代から四十年代にかけての高度経済成長期、中学校卒業後、集団就職した人たちは、どんな思いで郷里を離れたのか。彼ら彼女らからの聞き書きをまとめることによって集団就職の実相が記されました。当時の労働の実態から昭和史を学ぶ手がかりの一つとすることができます。

 集団就職といえば、昭和39年に発表された歌謡「あゝ上野駅」が有名ですが、ここで歌われたのは東北地方出身の人たちの集団就職と思われます。本書の発行元である弦書房の所在地は福岡。本書では九州・沖縄地方から集団就職した人々の生き様が扱われました。

 高等学校といえば、全日制、定時制、通信制という分類だけしか知りませんでしたが、かつて隔週定時制高校が存在していたことを初めて知りました。

 大阪府の南西部、泉州には多くの繊維工場がありましたが、そこで働く女子従業員の勤務体系に合わせて開設された定時制高校が隔週定時制高校でした。大阪府では、昭和41年に府立の高校として貝塚高校、鳳高校横山分校、和泉高校、泉南高校に女子の生徒だけを対象として、隔週定時制課程家政科が開設されました。ここでは、働くことと学ぶことを両立させることの難しさを通して、学ぶ場によって得ることができた生命の充実感について知ることができます。

 目次
はじめに
序章 見送る人たち
第一章 京・阪神で働く・・・鉄鋼と紡績の街
第二章 中京で働く・・・繊維と陶器と鉄鋼の町
第三章 関東で働く・・・京浜工業地帯
第四章 僕らは南の島からやって来た
第五章 年季奉公・・・封建的労働の名残り
第六章 隔週定時制高等学校・・・織姫たちの青春
第七章 いま、働くことの意味を問う
[付]集団就職とその時代
あとがき 「働くこと」の根幹を考える
主な参考文献

2017年5月15日 発行

[ 2017/10/01 00:00 ] 国内の作家の本 澤宮優 | TB(-) | CM(-)

髙村 薫 「作家的覚書」

「作家的覚書」
著 者 髙村 薫(たかむら かおる)
発行所 岩波新書


 2007年に政権を投げ出した人物が2012年に政権に返り咲くや否や、議会制民主主義を否定しながら成立させた様ざまな法律や施策。そんな人物が自ら関与したと思われる森友学園、加計学園問題についての疑惑を解消するための説明を懇切丁寧に行うといいながら、それは口先だけ。国政に関する様ざまな案件を放り出したまま、28日、臨時国会冒頭で衆議院を解散するという。衆議院議員総選挙は来月22日とか。

 国民は再び、国政を私物化しているとしか思えない、このような人物に政権を付託してしまうのだろうか。

 「作家的覚書」というタイトルから、創作活動の秘密が書かれているのかと思ったのだが、本書の内容は、2014年から2016年にかけて『図書』などに発表された社会時評。期せずして、疑惑隠しのために衆議院を解散しようとしている人物が政権を担当した時期に発表された社会時評でした。そんな社会時評を、現政権が疑惑隠しのために行う大義なき解散の日に間に合うかのように読み終えることができた。

 現政権の独裁を彷彿とさせる政権運営は言語道断と、その時々に思ってはいたのだけれども、本書の中で言葉を尽くして分かりやすく書かれていると、改めて、政権担当者の暴虐振りを客観的にとらえ直すことができる。

2017年4月20日 第1刷発行

[ 2017/09/26 00:00 ] 国内の作家の本 髙村薫 | TB(-) | CM(-)

別所真紀子 「残る蛍 浜藻歌仙帖」

「残る蛍 浜藻歌仙帖」
著 者 別所真紀子(べっしょ まきこ)
発行所 新人物往来社


 前作「つらつら椿―浜藻歌仙帖」のほぼ一年後の連衆のようす。主人公は、実在の人物、江戸時代後期の女流俳人五十嵐浜藻。しかし浜藻の事績についての記録がほとんどないので、本書は連句に造詣の深い筆者によるフィクションです。筆者の思い入れの深い浜藻像が描かれました。

 月に一度の月次会。一座連衆が集えば、人生の哀歓、老若男女、生業も様ざまなれども、一心同体となって「かりそめの世」の歌仙を巻く。

 発端は「行く春の巻」、浜藻の旅ごころの句に長翠の出した付句「死んだ倅にばったりと逢ふ」、

行く春のわれも水沫か隅田川    冬夢
 釣糸垂れる翁長閑        助亭
百千鳥わらべ遊びを囃しゐて    みき
 はや入相の鐘鳴り出る      志鏡
望の月濡れ濡れ光る黒瓦      久蔵
 籠に盛りたる柿のうつくし    りえ
旅ごころ小さき草鞋を今年藁    浜藻
 死んだ倅にばったりと逢ふ    長翠
・・・・・・・・・・

 物語は一気に俳諧ミステリーの様相を呈していきます。
 一座連衆の集う連句の場が盛り上げる俳諧小説の面白さ。

 しかし、「残る蛍の巻」で拾われた赤子はどうなるのでしょうか。一読者としては気になるところです。

2004年4月30日 第1刷発行

[ 2017/09/24 16:00 ] 国内の作家の本 別所真紀子 | TB(-) | CM(-)

逢坂 剛 「平蔵狩り」

「平蔵狩り」
著 者 逢坂 剛(おうさか ごう)
画   中 一弥(なか かずや)
発行所 文藝春秋


 時代設定は江戸時代、老中松平定信のころの江戸。
 火付盗賊改方長谷川組の活躍を描く時代劇だが、現代感覚で読むことができるミステリー。というよりも現代ミステリーの江戸時代版。あまりの面白さにあっという間に読み終えてしまった。収録作品は6編。どの作品も粒ぞろい。

 主な登場人物は、
長谷川平蔵 江戸の火付盗賊改方の頭領。
公家憲一郎 長谷川組与力。
俵井小源太 召捕廻り方の同心。
今永仁兵衛 長谷川組同心。
美於 表向きは料亭の仲居。時に応じて火盗改の手先。
りん かつて盗っ人の一味。現在は更生に励む。

初出一覧
寄場の女 『オール讀物』2013年1月号
刀の錆  『オール讀物』2013年4月号
仏の玄庵 『オール讀物』2013年8月号
平蔵の首 『オール讀物』2013年10月号
鬼殺し  『オール讀物』2014年1月号
黒法師  『オール讀物』2014年4月号

2014年8月10日 第1刷発行

[ 2017/09/16 15:00 ] 国内の作家の本 逢坂剛 | TB(-) | CM(-)

嵐山光三郎 「悪党芭蕉」

「悪党芭蕉」
著 者 嵐山光三郎(あらしやま こうざぶろう)
発行所 新潮社


 本書の発行は2006年4月25日。2017年4月25日に発行された著者の「芭蕉という修羅」と較べると、芭蕉の深川隠棲の謎など芭蕉の境涯的なものについては古色蒼然という感じを否めないが、芭蕉の俳諧に対する考え方、芭蕉が主催した歌仙、発句に対する心構えなどについては十分な示唆を得ることができる。

 例えば、51ページからの、4「作意」を消せるか。

 其角の『いつを昔』(元禄三年)に出てくる巴風の句「下臥につかみ分ばや糸桜」を例にあげながら、

 芭蕉が、「其角はどういうつもりでこんな句を入集したのだろう」と問うので、去来は「つかみあげたい気分をうまく表現している」と答えた。すると芭蕉は「謂い応せて何かある」(描写しつくして、何になるのだ)と批判した。
 これは巴風の「作意」を批判する形で其角撰に「作意」を見ている。「結論」を詠み切ってしまうのは、連俳の発句としてはあとがつづかないと難じている。(53ページ~54ページ)

 その後、去来の句「手をはなつ中に落ちけり朧月」を例にあげて、

 この句は、堅物の去来としては、はなやかで、やわらかい。しかし芭蕉は「あまり上手に言っていて、まことめかしく作りあげている。其角は『謂い応す』のがよくなく、去来の句は『謂いまぎらす』(表現でこねあげる)」ところに作意がある、とみた。(54ページ)

 俳諧は共同の文芸。そのうちの発句を独立させたものが、現在の俳句。俳句の場合、念頭に置かなければならないのは、その俳句を読んでの読者の自由な連想。とすれば、現代俳句でも『謂い応す』ことのないように、『謂いまぎらす』ことのないようにすることが俳句作者としての大切な心がけ。そうでないと、出来上がったものは作者本人だけで完結してしまう俳句もどきになってしまう。

 以前このことを、大峯あきらは毎日俳壇に寄せた文章で次のように表現している。

 詩作にとっての敵は、知的分別による操作や装飾である。これには意識的なものだけでなく、無意識的なものもある。「する句」でなく「成る句」をすすめた芭蕉は正しい。(毎日新聞「毎日俳壇」大峯あきら)

 俳句を成立させるために大切なことは、「する句」でなく「成る句」を心がけること。

2006年4月25日 発行

[ 2017/09/15 14:00 ] 国内の作家の本 嵐山光三郎 | TB(-) | CM(-)
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きどのひつじ

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散歩すると猫に会う。
いつもの場所にいつもの猫がいるのだが、人間とは付かず離れずの関係を保ちつつ生きているように思われる。

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